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訃報訃報で思い出すSFの底力



スタートレック ディープスペースナイン:DS9
シーズン6 第135話
「夢 遥かなる地にて:Far beyond the stars」

スタートレックの魂・スタートレックの意地を見せつけた超傑作エピソード

たぶん1940-50年代あたりのアメリカ
SF雑誌出版社の小さなオフィスが舞台
黒人であることを読者に隠しながら小説を書き続ける ベニー・ラッセル
たぶん サミュエル・R・ディレーニイ がモデル。
女性であることを読者に隠している K・C・ハンター
C・L・ムーア である。
ロボットの小説ばかり書いているちょっと変人の アルバート
アシモフ やね。


C・L・ムーア「大宇宙の魔女」
そして 先日死去されてしまった佐藤文隆氏の超名著「相対論的宇宙論」
私らの世代は全員これを読んでいた!
宇宙といえば松本零士な時代。


さて ライバル雑誌「ギャラクシー」は
ハインライン ブラッドベリ スタージョン をかかえている。
そういうセリフがあるし 「それは宇宙から来た」や「人形使い」なんて作品名が飛び出す。

ベニーは黒人を主人公にしたSF小説をなんとか出版しようとするが
社主からの反対 クビ 刑事にボコボコにされるなど散々である。

本エピソードは SF界隈にも確かに存在した女性差別・黒人差別と真正面から向き合い 過ちを乗り越えて未来へ向かおうとする決意を描く。
その心意気やよし! スタートレック魂である。


このDS9エピソードではアメリカ文学と黒人との歴史に関して
W.E.B.デュボイス ゾラ・ニール・ハーストン ラングストン・ヒューズ リチャード・ライト「アメリカの息子」
といったキーワードが語られました(メモした)。
私はこれらに疎いのですが ピピッとくる方もいらっしゃるかも知れず
ぜひ本エピソードをご覧になっていただきたい SFだからと色眼鏡で見ないで。



ジェームズ・ティプトリー・ジュニア
及び
サミュエル・R・ディレーニイ


サミュエル・R・ディレーニイは 黒人かつゲイという特異な立ち位置でSFを放ったユニークな作家で
魔術的・奇々怪界な世界観が強力な魅力を放射する最高の作家です。
(わたしは汲み取れなかったが 嘘か誠か 新星爆発の描写で男性同士の行いを表現してたりするらしい。 SFってすげえな!)

さて 私はこのDS9のエピソード初見時
女性であることを隠しているSF作家ハンターのモデルを
J・ティプトリー・ジュニア ではないかと思ってたりした。
ティプトリーが女性であることを隠していた話はSF好きの間ではあまりにも有名で 単純にそう思いこんだのでした。

で 年代を調べてみると
CLムーア 1911-1987
ティプトリー 1915-1987
これだけ見るとほぼ同年代だったりもします。
なのですが 実はティプトリーはSF作家としては超遅咲きなのです。
活躍の中心は1970-80年代です。
まあ 本エピソードでの年代設定は曖昧設定で 実在の出来事・人物との噛み合わせに関してはあまり気にするべきじゃあないかもです。

そんなティプトリーの波瀾万丈の人生ストーリーはまさに我々にとって伝説的な物語なのですが
先日このような邦訳本が突如出版されました。


「男たちの知らない女 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの二つの生涯」

なんで今?まさかの突発事故のような出来事。 怒涛のように読んでしまいました。
本稿を書こうと思ったのは この本の読書がきっかけでDS9のこの傑作エピソードが記憶の底から浮上したからです。
SFファン向け”でしかない”まさにマニア向けの本なのですが
まさに今書店で入手可能ですので なんかの拍子にうっかりご購入するってのも悪くありませんよ。
それにしても ディレーニイもティプトリーも 今の人たちには”肝心の小説”が入手困難ですよね・・・

あれ、 ちなみに今スタートレックってどこで見られるのだろうか・・
(私は古のDVDボックスのアーカイブを完備している)
ちょっと見回った感じでは・・
あれ 今って ディープスペースナイン どこからも配信されてないの!!??
まじか
これだけおすすめしといて 肝心の 見る術がないんか
心から なんとかならんもんかと思う。すまん。

見られないもの読めないものだらけだ。


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女性SF作家たちは 独特のグルーブ感を持っていると思う。
単純な紋切りはできんとは思いますが
男性陣の 無機的・機械的・論理的 かっちり的な作法に対し
女性陣の方は より有機的・生命や性・誕生や死にフォーカスした ネバネバ的な作法という印象
(こういう単純化は 天国のルグインばーちゃんに激しく怒られそうだ・・)

たとえばティプトリーの「最後の午後に」という短編 これだけでも読んでみてほしい。
本当にすごいんだからティプトリーは。こんなの誰も勝てないよ男子は。


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ジョン・ヴァーリイ

SFとジェンダーという切り口は果てしなく分岐し広がり
私なんかの手には全くもって負いかねるのですが もう一つだけ。
これも訃報で思い出した流れとなってしまいます ジョン・ヴァーリイ。

なんといっても「八世界シリーズ」。
異星人に蹂躙された地球を捨てた人類のストーリー。
異星人との戦いなどというものは全く描かれない。
地球は異星人のものなのだ。 人類は火星や土星や小惑星やに散らばり平和に暮らしている。
それが当たり前になった時代の 様々な人々の生き様を描く 短編の連作である。
こういう超想像力 本当にふるえるよなぁ。

ヴァーリイの描く 誰もが気軽に身体改造する世界は プレサイバーパンクと呼ばれる。
お母さんと<変身>について大げんかしたり 同級生の男子が急に女子になっててちょっとびっくりしたり。
テクノロジーによる性の往復運動が日常化したなら 現在とは全く異なった形態の社会に変貌しているだろう。
21世紀の今日あーだこーだもめてるあれこれは 完全にばかばかしい過去のものとして 後方に置き去りだ。
こういう凄まじい予知能力・透視能力をSF作家は持っているのだ。


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最後に 訃報からもう一つ SFではなく
谷口義明先生
本当にたくさんの本にお世話になった。
天文学者の著作はそれこそ星の数ほどありますが 谷口氏の著作は完全に一線を画す。
ブラックホールとは何か ではなく なぜ宇宙はブラックホールを作るのか という角度を提示する。
あるいは 終始物理学・天文学につきまとう0と♾️の呪いについて。
先生は 抽象と具体のけじめに注意を促し 現実の宇宙においては0も♾️も実在ではないと喝破する。
この辺り昨今流行のマルチバース論・テグマークが振りかざす無限の宇宙観とは真っ向からバトる。
わたしは読書快楽主義者として 谷口先生の著作もマックステグマークも どちらも大好きである。
どっちが合ってる間違ってるではない 極端な話そこはどうでもいいまである。
面白い本が読みたい 思わぬ角度からの語りにびっくりしたい 未体験の感覚にゾワゾワしたい そこが肝心な部分なんよ。

で 嬉しいことに 谷口先生の放送大学の講座
2018版「太陽と太陽系の科学」
2019版「宇宙の誕生と進化」
が再放送されます 4月から。

放送大学のTV講座は BSが見られる人なら誰でも自由に視聴できます。
申請や入学など不要 テキストは書店で売ってます。
この事を知らず講座に触れないでいる人たち 意外に多いかも。

言いたくはないが 数多あるネットでの天文系の怪しげな単発情報の断片どもへいきあたりばたりごちゃごちゃ接触し 脳をきたならしい蘊蓄スラム化してしまうくらいなら
これらの講座を一から順番に学び 美しく整列した知識に基づく宇宙観を身につける方がよっぽど人生が豊かである。
こうしたきちんとした知識は たとえばハードSFの読書を100倍楽しくするのだ。



2026.3.1

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