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三体 リュウ・ジキン

待ちました。長かった。


とにかく これほど今か今かと待たれた翻訳は 最近では珍しいのでは。
ということで 私も我慢なんかしません 即買いです。

まずは 文革を通して描写される 人類の馬鹿さ加減への底なしの絶望と 科学の優位性 といったトーンでストーリーが展開。
つまり 主人公には同情するが 議論としては素直に賛成は・・
と言いたいところだが まあ正直言って 結局 なんというか 告白してしまえば 実は私もずっとそう思ってるぜ。

文革とスターリンとポルポトと日本赤軍と一神教とイエメンとシリアとムガベとアミンとソマリアとルワンダとウイグルとチベットとロヒンギャと麻薬カルテルとレッドパージとセーラムとKKKと異端弾圧とコルテスピサロと黒人奴隷と子供十字軍と関東軍と優生学と知的デザインと月面ラッシュと銃規制失敗とEU失敗とGAFAと熱帯雨林と北極航路とゴミベルトとみんなでぼーっと眺めてるだけの海水温・・

こいつらはすべて 人間・大衆は同じ動作を飽きもせず繰り返し続けるようにできている というまごうかたなき現実の現れであーる。
我々は 延々と 繰り返し繰り返し 同じ踊りを舞い続けるのだよ これまでずっと これからもずっと。

個人/大衆 遺伝子/脳 (素粒子/物体もそうかもしんない)
こういったミクロ/マクロの相関関係は全て 基本的で不変な法則に従って 常に同じ形の繰り返し動作を誘発する。
奇跡が起きたことは 歴史上たぶん一度もないです。 あーオメラス。
あるいは 「脳がポンコツなのが全ての元凶!」 という御もっともな御意見を尊重するなら、 問題を引き起こしてるサブルーチンは おそらく
  外集団内集団 という意識無意識
  変化盲(時間盲)
  スケール感の不能(空間盲)
  結局は常に扁桃体の勝ち
といったところとなるでしょう。
これをオーバーライドするとしたら バルカン人的境地 しかないのですが、
すなわち 嘘ではなく真実が優位する保証や 強靭な理性的精神力による情動の抑えつけ (小説でも最後の方にちょっと出てきた) という処方箋になるの です。
ですがぁ、
これはつまり 青春の全否定 哺乳類としての活力の放棄 への道でもあるわけです。
人間が 人工知能的なものではなく 進化の中で育ってきた生命体である という事の全否定になるわけです。
だから結局 この革命は 地球人には実質無理なわけです。(そこで お願い三体人 なわけですが。)
そして本当は こういった”人類の治療”的な夢想 ケストラー的夢想自体 野生に対する理性の”傲慢”なのだ と思い至るわけです。(僕も反省します・・)
そして この小説のカルト集団の言う「人間は悪だ」的な言い方そのものが 理性の短絡的動作による傲慢なのでしょう。

( ”悪”(と人間の脳が一旦言っているもの)とは何か?
然して”善”とは 結局どんな感じに元も子もないものなのか?
この事に関して 相撲評論家の故ライアルワトソンさんからヒントをもらった私の感想があります。 いつか書く。)

えー、本書感想に戻って、
まさかこの歳になって 以上のような高二病?をまたぶり返す羽目になろうとは。
大傑作SFだということで膨らませていた期待と想像とはちょっと異なる方向にぶっ飛ばされてびっくりです。
「革命が成功すれば世界は変えられるのだ」というヒロインだったり、敵がそもそも全体主義だったという階層構造だったりだったり、、
「これが中国SFという新しい分野なのか」と まあ誰でも思いつく感想をとりあえず言ってみます。

誤解されるといけない! くれぐれも本作、めちゃくちゃ面白いです。
刺激に溢れてやまないエンタメ大作と言って全然間違いないです。
とにかく山盛り。
一人の女性の人生、絶望が ものすごく丁寧に繊細に見事に描かれている、
かと思えば 全人類への逆恨みによる復讐を秒で決断するという破廉恥さ。
一方 オタク的細かさのハードSF要素の執拗な書き込みが有りつつ 大味な大仕掛けも満載。 テンプレートなカルトもお約束。
人民コンピューターはそもそも同期クロック的な機能がないと多分動かないだろうなぁ、
太陽アンプにはただただ煙に巻かれてしまった・・
何と言っても 三体人のあの手この手の侵略方法が もう斜め上を行きすぎていて よくわからない わからなすぎて泣きそうになってくる。
真の侵略とは 物理攻撃ではない 思想教育なのだー。
そして 映像的に超ど派手なクライマックスが用意されている!
(読者のみんな!頭を冷やすんだ!敵艦隊を撃破するために使うんかとワクワクしてたあれだが、あの大作戦の目的は要するに ”消去ボタン押されちゃう!急いで!” なのよ!)
かくのごとく ハード要素とファンタジー要素 全ての部品が 未知のバランスでブレンドされているという 独特としか言いようがないエキゾチックなフレーバー。
確実に こんなものは今まで読んだことがなく いろいろな意味で 終始刺激の連続 楽しい読書でした。
多分このヘンテコ感は 従来の西欧中心のSF読書からの固定観念、習慣からくるものなのでしょう。
そういえば いわゆる東ヨーロッパSF という独特の雰囲気のジャンルがあります。
そして今回新たに 中華SF爆誕 ということでOKなのでせうか?
(でも、ケンリュウを読んだ時にはこの感覚は起きなかった・・)

まとめ。 要するに 本書の読書は・・

「ついに我が家にもやってきたぞー、ワクワク・・ 評判通り超面白い あれ、でもなんかちょっと雑だぞおい なんか心配になって・・ いや、でも確かにハードSFだよなぁ しかし、どういうつもりなのかさっぱり ってエーッ、なんじゃこりゃー」
そして 
「見たい! 早く画で見たい!」
でした。

2019.7.8

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