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カイラルって何 ヒッグスって何(DEATH STRANDING)

前記「ホモ・ディメンスについて調べてみた」に引き続き
デスストランディング劇中に登場するキーワード カイラルとヒッグス についての雑談です。
ついでに 簡単な読書ガイドも付け加えられればと思います。
今回も 何かしらの足しになれば、ちょっとだけお役に立てば といった程度のノートです。

さて かいつまめば

この宇宙では 対称性というものが崩れてしまい この世:表の物質世界 と あの世:裏返しで反物質の世界 が鏡写しの世界ではなくなってしまった。
その不均衡の中から ヒッグスのような輩が生まれ 素粒子を小突きまわして ”重さ” という苦役を与えるようになった・・・

で、 カイラル、ヒッグスとは

カイラル とは 鏡に映した時に 別の形に見える性質 のこと
ヒッグス とは 素粒子に 重さを与える仕組み(機構) のこと

以上。 これでとりあえず十分なのですが(本当か)、 せっかくなので もう少し詳しく・・・

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左右前後上下という感覚は実は 我々が重力のある地球表面にへばりついた存在であるがために感じる感覚であり  無重力の宇宙ステーションにいる飛行士だったりは この感覚を持ちません。
宇宙では 同じ移動物体を見ても 人それぞれ固有の見え方をします。
ある人には 隕石が右から左へ動いているとしても 別の人にとっては下から上へ動いているように見えるわけです。
ある人の「隕石は右から左へ動いている」という言い分は 他の人にとっては無意味なわけですね。
もっと言えば 隕石と並行して同じスピードで動いている人にとっては この隕石は止まっています。
向き という情報は 宇宙では その物体の固有の情報とはならないのです。


2種類の音楽プレイヤーの 早送り巻戻しボタン について見てみましょう。

早送り巻戻しボタンは 操作者にとって それぞれが決まった位置・方向に配置されてないと困ります。 安心して操作できなくなってしまいますね。
さて プレイヤーの”おもて面”の方向を ”上” として置いてあるとします。
手前の人にとっては 右にあるのが早送りボタン 左にあるのが巻戻しボタンです 問題なしのような気がします。
ですが 反対側にいる人から見ると ボタン配置が逆になってしまいますよね。
左右という位置関係が相対的な為 このような混乱が生じます。

が、ですね、
これが iPodプレーヤだとどうなるでしょう(iPod なんてもうよく覚えてないかもしれませんが・・)。
ジョグダイヤル方式は 早送り巻戻しの操作を 右ボタン左ボタン ではなく 右回り左回り で行います。
手前の人にとって 早送りが右回り 巻戻しが左回りです。
さて 反対側にいる人にとってはどうでしょうか?
同じです! 早送りが右回り 巻戻しが左回りです。
回転方向というのは 左右方向と違って 絶対的な方向情報なのですよ。
はい、ジョブズの勝ちぃ~!

ある軸方向・移動方向に対し(この例では オモテ面を上方向 と決めました)
回転方向というのは どの立場の人にとっても 同じ情報になります。
(ちなみに その粒子を追い抜くスピードで移動している人にとっては逆回転に見えるじゃん というさらにこの先の話があるのですが それはここでは触れない)
このように宇宙では  ある粒子が右に動いているか上へ動いているか などといった言葉には意味がありませんが  右回りで進んでいるか 左回りで進んでいるか ということは はっきりと区別される 意味を持つ情報なのです。


(さらにちなみに 観測者に対して静止している素粒子はどうでしょう。 この場合 右回りか左回りか ということははっきり言えません。 というか ここではうまく説明できませんが 量子力学では 右回りと左回りが重なった状態 二つの運動が同時に混在した状態 というような見方をします。が深入りはいたしません・・)


この 左回りと右回りの関係は 鏡のこちらと向こうの関係でもあります。
右回りの物体を鏡に映すと 鏡の向こうの世界に見えるその物体は 左回りをしています。
宇宙できっちり区別される運動は 鏡のこちらでの運動に対し それを鏡に映した向こうに見える運動 この2種類だ という言い方もできますよと。
(実は 時間Tは同じ方向に流れている事 という前提が入っています。)
で、
右回りのことを カイラリティがR
左回りのことを カイラリティがL
と言います。
要するに カイラル とは 鏡像が同じ形にならない性質の事 です。
化学の本を読んでいると 立体異性体とか 右旋性/左旋性とか 糖はみんな右旋体だ とかいう言い廻しに出くわします。
野依良治先生が ノーベル化学賞を受賞した キラル触媒による鏡像異性体の薬品の作り分け と言われる時のこの キラル というのも同じ意味ですね。

以上に示した
「鏡に映した時には 右巻きと左巻きが 逆転する」
という理解は、 実は 世に広まる
「鏡に映った像は なんで左右だけが逆になるのか という問題は未解決問題である」
というけしからん都市伝説への 完全回答となっているのです。

鏡に映る人間の場合は 右巻きと左巻きの違い というよりは 以下の図説のような 表人間と裏返し人間の違い という言い方のほうがイメージしやすいでしょう。
そして両者は結局同じことを言っているのです。
鏡というのは 3次元空間の3軸のうち 面に垂直な1軸の方向にのみ正負を反転させる座標変換なのですね。


鏡の前で どんな方向を向いていようと どんな姿勢だろうと この1軸方向のみ に向かって裏返しにするのが鏡です。
そして ご覧のように 結局は全く同じ裏返し人間になります。
左右が逆になったのではなく 裏返し人間になったのです!
右巻きが左巻きになったのだよ、フハhahahahahaha !




要するに 右巻きと左巻の2種類しかない というのと全く同じ意味において 表人間と裏返り人間の2種類だ ということです。


背番号が5の人や ポートが赤でスターボードが緑の彼女は カイラルです。
そして カイラルの語源は ギリシャ語の ”手” なのです。
以上が カイラル の駆け足説明となります。

さて 鏡像反転世界 鏡の向こうに見えているような世界が この宇宙のどこかに現実にあったとして その世界は こちらの世界同様 立派にやっていけるのかどうか 問題なく存在できるのかどうか。
一見 OKそうに思えます。
要は 鏡のこちら側の この部屋のものを 全部裏表逆さまに作ればいいんでしょ。
時計が右回りから左回りになるだけ 文字は右から左に読めばいいだけの話でしょ。
はじめは不便だけど 慣れ慣れ! という雑な感想がすぐに出てきそうです。
物理の法則は 素粒子が右ネジで動いていようと左ネジで動いていようと 同じように働くはずだと思いたい。
この 心休まる平穏な宇宙観を パリティー対称性:P対称性 と言います。
実は この宇宙では これが 破れています。
P対称性の破れ という驚くべき実験結果が出てしまいました。
鏡に映った世界は 目の前に映像として見えているわけですが その世界は現実には作れない ありえない世界 映像の中だけの世界という事なのです(素粒子レベルでのお話ですが)。
このことは ”量子力学入門”的な本なら どの本にも必ず書いてありますので
こんなアバウトな雑談ではなくもっとまともな説明が聞きたい方 ぜひ読んでみてください。
そして このドエライことを ドエライこととして 純な心でビックリしていただきたい。
さらに P対称性の破れの発見の後すぐ C対称性と言われるものも破れているという実験結果が出て いよいよ 物質と半物質の不均衡の話になってくることになります。
が、 
素人の私がこれ以上 この様な雑な解説をし続けても いよいよただの自己満足行為となっていってしまうでしょう・・・ 
あとは先生方の著作を読んでください!

ちなみに 鏡の話はズバリ この名著からの受け売りであります。

『自然界における左と右』 マーティン・ガードナー

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さて、では もう一つのキーワード ヒッグス とは何かです。
できるだけかいつまんで。

ヒッグス機構 は
量子力学の 標準模型 という理論体系によって説明されている この宇宙にある物質を構成する最小単位:クォーク・レプトン・ボーズ粒子 これらに質量を与える仕組み です。

さて ポピュラーサイエンスファンとして ヒッグズ機構についてきちんとした説明を聞いてみたい人 今度こそまともな話が聞きたいと思ってるそこのあなた
一択です! 現状この選択肢しかありません。

『量子物理学の発見』 レオン・レーダーマン

これを読め マル。
なぜこれを選ぶべきなのか レオン・レーダーマン先生の著作だからです(後述します)。

また 標準模型 についてはズバリ 名著『標準模型の宇宙』があります。
最高の本ですが 少々ややこしくもあり 複素数(複素平面・複素空間)について ちょっとでもイメージがある人には 障壁が少なめではあると思います・・
決して超難しい本ではありません。

『標準模型の宇宙』 ブルース・シューム

さて、
疑問: 重さ・質量とは そもそもなんぞや?
答え: 質量とは 進みにくさ である。

素粒子というのは もともと光速で直線運動したがるものなのです。
光子や 他にもグルーオンやグラビトン そういったボーズ粒子が今でもそうであるように。
宇宙最高速度:光速 すなわち 質量ゼロ です。
宇宙がはじまった瞬間 そこは 素粒子が光の速度で舞う 汚れのない世界だった。
ところが 宇宙空間(”真空”と言います)に広がる ヒッグス場 というものが 素粒子の直線運動に干渉するようになり 素粒子をどつきまわして フラフラ・ジグザグさせるようになった。
絡み具合の強弱は 素粒子の種類によって異なります。
素粒子はジグザグするたびに カイラリティが L-R-L-R-・・と反転します。
そして ジグザグ進むこと(正確には縦波的なスピードの緩急という感じらしいです)は 巨視的には 素粒子のスピードが光速以下に落ちたことになるのです。
(前にちらっと 追い抜くスピードだと回転が逆に見える と述べました。 おひまなときにでも このことも合わせてじっくり反芻してみると良いかもしれませぬ・・)
この 足の引っ張られ具合 スピードの落ち具合が それぞれの素粒子の質量なのです。
軽いとは速い事 重いとは遅い事 なのです。
『量子力学の発見』では この機構の説明を とても詳しく順を追って丁寧にしてくれます。
ヒッグス場は 弱荷という値を素粒子とやりとりすることで この千鳥運動を誘発するのですが この辺の事情がすっかりわかりますよ。
実際 ヒッグス機構に関する説明で 心底腑に落ちた本というのは このレーダーマンさんの本を置いて他になかったです。
「あー、そーいうことなのか!見えた!見えました! ったく、今まで読んできた本は一体なんだったんだよ、っきしょーめ!」こんな感じ。
(くれぐれも 私の貧しい読書経験の中では ですが・・)

さて 長くなってきた・・まずい・・(そろそろ引き返されてしまう・・)

もう一つ言わねばならぬことがあり、
「ヒッグス場(ヒッグス粒子)は この世界に重さを与えた」 といった大雑把な物言いをよく耳にします。
し、 ここまで書いてきたことも そう言っているように聞こえるかもしれません。
が、 ですね、  実は違っておりまして
宇宙にある 物質と呼ばれるもの:原子 は 陽子・中性子・電子 からできており
中でもほとんどの質量は 原子核たる 陽子と中性子 に集中していますよね。
これらの質量のほとんどは実は 強い力の機構というもの:クォークとグルーオンと呼ばれる素粒子の機構 に起源があるもので ヒッグス場とは関係がないのですよん。
つまり 物質の質量と言われるもののほとんどは ヒッグス機構によるものではありません。
ヒッグス機構は 標準模型といわれる素粒子のリスト(これが宇宙の全素粒子であるのですが)にある これら素粒子の質量を説明するものです。
で、 原子は これら素粒子を部品や糊として組み立てられた 構造物なのです(*1)。
そして この構造物に重さを与える仕組みは また別にあるのです。
そして この強い力による質量は ヒッグス場がクォークに与えている質量に比べて 全然でかいのです。
ですので いわゆる物質といわれるものの質量 に対してヒッグス場が関与している部分は 小さい のですよ・・・

==

(*1)
SF小説『三体』の どうにも腑に落ちない この小説がハードSFなのか雑なSFなのか 私の中で見極めきれない数多くのポイントの一つがここでして
要するに ”陽子” なんてものは無い んです。
いや、無いというか、
陽子とは クォークとグルーオン という本当の実態:素粒子 から構成された構造物 を指した呼称 なんであり
陽子という粒子 なんか球形の殻のようなものでできた何か それだけで一つの何かである者 つーことではないんですなー・・ なんともかなわんなー・・・

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さて、 超大雑把な カイラル/ヒッグス に関する説明が済んだところで
次は サイエンス本の読書案内 私流の本の選び方 おすすめ本です。

サイエンス読み物 ポピュラーサイエンスの迷宮 の中で 読むべき本は一体どれなのか。
血と肉と骨になる ちゃんとした読書体験を与えてくれるのは どういう本なのか。


さて 元も子もないことを言えば まずは教科書で勉強しろ となります。
でも ポピュラーサイエンスファン一般としては そこまでは要求されない。
専門的な知識を身につけた先生方に 自分にもわかるように優しく教えて欲しい。
ただし いい加減な情報ではなく ちゃんと地に足のついた知識プリーズ。
という立場でしょう。

そこで 不肖私なりの本選びのヒントを書いてみようと思います。
私は一応理工学部卒なのですが 量子力学を専門に勉強したことはなく ポピュラーサイエンスとして色々な出版物をエンタメとして楽しんで読み漁っているといったレベルの者です。
学生時代は怠け者だったのですが どちらかというと就職後・独立後に 改めて物理の勉強をちょこちょこ という感じです。
大学の物理学では 電磁気学+特殊相対論 & 量子力学基礎 という 一旦のゴールがあるのですが そこぐらいまではまあまあわかってる程度でして 一般相対論は未だに胸を張って勉強したとは言えない。
(一般相対論すなわち重力は アインシュタインがたった一人で歩いてっちゃった先の場所で いわゆる量子力学の基礎を把握することとは 全然関係なかったりしまして 素人にとっては学習の果てに行き着く場所がないのです。 もちろん ブラックホール・重力波・超ひも理論という 人類最高峰の難問たちをアタックするためには必修武器になります。 そこは素人が遊びで飛び込めるようなバトルフィールドじゃあねえんだよ。)
まあ そんな私からの参考意見ですので その程度のレベルからのアドバイスかと思って気軽に聞いていただければと思います。

BB

さて 具合の悪いことに ある日あなたは
「ヒッグス粒子とはなんぞや カイラリティとはなんぞや 一刻も早く調べねば!」
と思い立ってしまい とりあえず本屋さんへ行ったとします。

例えば BBです。 ブリッジベイビー ではなく ブルーバックスの方です。
ポピュラーサイエンスが好きな方たち 少なからず手に取ったことがあるはず。
しかしこいつらはですねぇ BBちゃんみたいに 絆で結ばれたバディー にはなってくれないのですよ。
つかの間の 行きずりの関係 にしかならないんだ。
身になるかならないかといえば はっきり言って No!
みなさんよく手にとられる新書本:ブルーバックス 現代新書 中公新書 その他最近すごく増えたサイエンス系の新書シリーズたち。
これらは私もよく手に取るのですが なんというか 面白い読み物として読んだら終わりになってしまうものが多いですね。
一つのテーマについて系統的に理解したい と思うと あまり役に立たないことが多いです。
それが証拠に 我が家の本棚に並ぶ背表紙たちを眺めていても・・・内容をさっぱり思い出せないゾ・・・(もちろん すごい良書も中にはあると思いますよ。)

そこで もうちょっと読み応えのある 単行本の出番となるわけです。
が、 これがまた ものすごいいろいろ出ているわけです。
例えば 今回のお題のヒッグス粒子について知りたい と思った時に いったいどれを読みゃあ良いんだ〜 と科学コーナーの書棚の前で途方にくれることになるわけです。

ポイント1
大まかに言ってこの2つに分かれます。

A:新進気鋭の科学者が 実は 自説を開陳するために 書いた本
B:押しも押されぬ物理学の大御所の先生が 啓蒙書として 書いた本

< A >

新刊が大々的に平積みになり 帯にすごいキャッチコピーが並ぶ本、 
新し物好き ぶっ飛んだもの好き の好奇心を釣り上げて売りさばくのが Aの方。

例えば 超ひも理論 並行宇宙 マルチバース ブラックホールとワームホール  みたいな釣り文句が並ぶやつです。
具体的には ランドール グリーン タイソン ミチオ・・・ 最前線バリバリの でも仮説段階の学説を 我々素人に喧伝し刷り込もうと陰謀を張り巡らせている奴らです(失礼言いすぎた)。
すいません 実は ホーキング先生の本も この分類方法だと Aになります。
ブラックホールの蒸発について 自然言語の本1冊で素人に理解させようというのが ほとんど無謀案件だからです。
こういう自説開陳型の本達は ほぼ確実に いっつもいっつも 以下の様な構造をしています・・・

前半
基礎講座パート:量子力学の基礎講座や偉人伝などの ライトな読み物です。
そして この手の本を何冊も読んでいると このパートが だんだん鬱陶しくなってくるはずです。
だって この話聞くの100回目なんですもの。 何回同じ話聞かされるのよ。

後半
いよいよ最新仮説開陳パート:超弦理論 量子重力理論 マルチバース パラレルワールド・・・

そして 以上のような構造が 問題を引き起こします。
前半と後半の内容の難易度の 極端なジャンプの発生です。
この問題は 本の構成上致し方ない ということがお分かりいただけるでしょう。
こういう構造は タイプAの本の全てに ことごとく当てはまる 典型的な際立った特徴です。
結果、 読了後に読者に残るものは 前半の鬱陶しい基礎講座(今までなんども聞かされたわ)の淡い思い出 と 後半の最新超絶理論の解説に煙に巻かれまくるというSF的読書体験 となってしまいます。

つまりこいつらの本は とっくに知ってる事 と さっぱりわからない事 この2つでできているのだよ! フフフフフhahahahahahahaha!

で、 しかしです、 ここも肝心なのですが 理解の役にはさっぱり立たないとして では読書として面白いか面白くないかという観点からだと めっさ面白いのですよ。
私なんかはですが あくまでSF小説感覚で めっさ面白いという読み方に近いです。
何かが勉強できた 理解できた 身になった ということは いっさいゴザイマセンのですが。
例えば 『QBism』という最近読んだ本ですが すごく面白かった(日経サイエンスの記事で先に触れていて とても楽しみにしていたのです) そして さっぱりわからんのですよ、著者の言いたいことが!
科学の内容がわかるかわからないか ということと その本の読書がつまらないか面白いか ということとは違うのです。
ここは一応言っておかなければならないことなのです。

ズバリ わからない ということは 面白いのです 楽しいのです。

よくわからんが とにかく今すごいことが研究されているらしい すごいアイディアが世界のどこかに存在するらしい と教えてくれるだけでわくわくする。
これは SF小説の読書体験と 相似形です。
未知の場所への探検というのは そういうメンタリティーなんでしょう。
こういう読書は 探検・探査型エンターテインメント なのです。

=====

一方ですね エンターテインメントではなく 真面目に勉強してみたい ちゃんと理解したい という方向性の読書を求めている場合には 迷わずBの選択となります。
B:押しも押されぬ物理学の大御所の先生が 啓蒙書として書いている本
Bの本は さらに2つに分類される感じです。

ポイント2
Bの本は さらに2つに分かれます。

B-1:理論屋さん が書いた本
B-2:実験屋さん が書いた本

<B−1>

まずはB-1でおすすめする本 というかまさに 「まずはこれを読め!」 とでかい声で言いたい本です。
基本図書です。

1:『宇宙創生はじめの三分間』 スティーブン・ワインバーグ
2:『光と物質のふしぎな理論』 リチャード・ファインマン
3:『クォーク』 南部陽一郎


1は ビッグバンについて知りたいと思った人は とにかくまずはこれを読め。 話はそれからだ。
ワインバーグ先生は 新しもの好きというか 柔軟というか 古い理論にしがみつかずに今だに最前線で現役な感じの 大好きな先生です(一緒に受賞したグラショーとは そこが違うんだなー)

2は 素粒子が粒でもあり波でもあるらしい という話を聞きつけて興味を持った人は とにかくまずはこれを読め。 話はそれからだ。
光の反射や屈折について 私にとってすごく目を開かされた本です(*2)。
(注:ファインマン先生は 三角関数や複素数を使わずに必死に説明してくれますが 実は若干数学がわかっていると なおやさしく読めるとは思います・・)

3は 歴史上もっとも偉大な日本人 南部先生の御本です。
絶対 読ま・・本棚に飾っておかなきゃダメ。
我々サイエンス本民は 一家に一冊本棚に祀っておかなきゃいけない本。
・・できれば 全部読みましょう。

< B−2>

B-1推薦図書は ノーベル賞科学者の書かれた 基礎の啓蒙書でしたが
次は 基礎プラスもっと深い物理学の話題を 噛み砕いて説明してくれる本のお薦め。
それが B-2 の方です。
そして AやB-1に比べて B-2の本はかなり少ないです。
よく聞く話で  「理論屋の本ばっかり出版されるのはなぜか? 俺たち実験屋に比べて 書く時間がたっぷりあるからだよ」  というのがありますね。
量子力学の深イイ部分の解説本としてはまず 先にお話しした A分類の著作が目立ちますし 書店に大量に投下されています。
しかし 私が是非お勧めしたいのが B-2:実験屋さんの先生が書かれた本なのです。
実験屋さんという立ち位置の先生の方が 我々一般読者:学者ではないポピュラーサイエンスファン の立場をより理解してくれて うまく噛み砕いて説明してくれてるような気がするんですよね。
現場に近い 市井に近い という感じ。
そして 実験屋さん代表 というか 量子力学の説明の本となると もうほとんどこの先生 一択 だと言い切っていいでしょう。
レオン・レーダーマンさんです。

『神がつくった究極の素粒子』『対称性』『詩人のための量子力学』『量子物理学の発見』 レオン・レーダーマン

先に 「量子物理学の発見」を ヒッグス粒子本の決定版としてご紹介しましたね。
レーダーマンさんの本は 理論一辺倒の説明ではなく 実際の実験現場の様子と理論の説明とを絡めて話を進めるので 読者にとって臨場感があるしイメージしやすい 発見と進展のストーリーとして流れが飲み込みやすい説明だなあと思います。
何より 文章がおもしろい。 説明がうまいうまい!
おもろい科学者の代表といえばファインマンですが あちらが理論屋の一番おもろい人だとしたら レーダーマンさんは実験屋の一番おもろい人です。
彼が実際に携わってきた有名な実験、研究所施設、測定装置の話も多く 成功も失敗もドタバタもあり 実験屋さんならではのプロジェクトX的な読み物としての楽しさが有ります。
そして実は ここに並べたレーダーマンさんの著作を順番に読んでいくことは 奇しくもそのまま アメリカのSSC計画:超電導超大型加速器 の夢が頓挫していく過程(アメリカという国が弱っていく過程!)の ほろ苦い歴史を 博士と一緒に辿る旅にもなっています。

さて 実験屋さんでもう一人ご紹介するのは 外村彰先生。

『ゲージ場を見る』『量子力学を見る』『量子力学への招待』 外村彰

3冊あげましたが、実は内容はほぼ一緒です。 ・・同んなじなんですねぇ・・
外村先生が撮った 様々な実験写真がたくさん紹介されてます。
特に有名なのが 先生の名を世界に轟かせた スリット実験の写真ですが 本当に衝撃的なのは 実は ベクトルポテンシャル:ゲージ場 の写真です。
電磁気の勉強を進めると中ほどで出てくる概念ですが これが抽象概念ではなく実際に目で見て確認出来てしまったという衝撃実験です。
でね 教科書の勉強でベクトルポテンシャル/スカラーポテンシャルはやると思うんですけど 数式一辺倒ではなく こういう実験屋さんの実験結果についてもですね もっと授業や教科書で大きく取り上げるべきじゃないか 大学の時にこの本読んでればなー と思うわけなんです・・・

最後に 今現在 本を書いてくれる実験屋さん代表といえば 多田将先生 です。
たくさん出ています。 全部面白いし とても読みやすいですね。
『すごい実験』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『放射線について考えよう。』・・
やっぱり 実験屋さんの本は面白いのです。

おまけ:
放送大学 「場と時間空間の物理学」
電磁気を復習しようと思った時に この講座にたどり着きました。
岸根純一郎先生の放送が とにかく面白く 電磁気についてすごく気づきをもらえました。
ただし たったの15講座で全てを網羅しており 電磁気、相対論の超ダイジェスト版で このテキストで場の理論を1から勉強するとかは 多分不可能 無謀。
復習用 一通り勉強した人が 新たな登山ルートで全体を捉え直すという目的で見るなら すごくおもしろい内容ではないかと思います。

==

(*2)
ちょっと前 「メッセージ」という映画と その原作の「あなたの人生の物語」というSF小説が 話題になりました。
最高の映画でした が、 原作の中で私的に引っかかってしまう部分がありまして 未来を予知する能力の説明の部分で フェルマーの原理というのを持ち出してしまうのです。
はっきり言って ファインマン先生の本で 光の屈折についての説明をきちんと読んでいる人は こんな説明には騙されないでしょう。
光がつぶつぶ・あるいは線というイメージから抜け出し 一粒一粒が波でもある という根本のところをちゃんと押さえましょう。 先生の話をよく聞いとけ!
基本図書は 大事なんです。

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えーと、 それでは以上となります、・・・

カイラルとは何か
ヒッグスとは何か
おすすめ本と 私流の本の選び方

でした。
結局 長くなってしまった。
長くなればなるほど 読んでくれる人の数が減っていくことは 私も知っている・・
こんな一気書きみたいなんじゃなく 時間をかけてもっと整理すれば もうちょっとマシなページになるんだろうけど・・  上手くできないん・・

2019.12.02

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