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錯覚の科学(放送大学)

現在 放送大学では 「錯覚の科学 2020年度版」を放送中ですが すばらしいです。
トリックアートや錯視についての講義は
アーティスト、イラストレーター、3Dモデラー、パフォーマーの方々 などなど表現活動をされている人 必見。
そしてなにより 認知的錯誤などに関してのお話は
ニュースやワイドショウ、SNS情報などに日々右往左往させられている我々全て、報道する側、コメンテーター、”有識者”の方々などなど 全員必見なのでは と思います。
つまり
実質 全人類必見! となります。

全15回の講座で もうすでに残り6回(5回?)となってますが いつもどおり来季以降も何度も再放送されるはずですのでご安心ください。
私は「錯覚の科学 2014年版」も視聴、録画していて とても面白かったのですが
今回はそのバージョンアップ版という感じで 最新情報もたくさん盛り込んで とても楽しい内容となっております。

イラストや絵画などに関しては
 パターンの中から絵が見えてくる心理
 人によって 同じものの中に 違うものを見ているかも
 3Dの認識の仕方 奥行知覚
 絵画的手がかり:2Dでの遠近表現様々
 リバースパースペクティブ:逆遠近法
 静止画がもにゅもにゅ動いて見える錯覚パターン
 子供の絵 頭足人 知的写実
 西洋絵画の遠近法・短縮方
などなどとりあげられていますが
第6回以降の 人間心理における錯覚・錯誤の講義が さらにおもしろく
私のような素人には非常に勉強になる内容です。
人間の脳みその さまざまなくせや手抜きによって 物事への思い込み、思い込まされ、煽動されてしまう仕組み
錯覚が 長期間にわたってその人の思考や行動を左右してしまう仕組み
悪く言えば 人を操る方法 ノウハウ。
こういった 人の心理のハック行為は 政治家、煽動家、デマゴーグ、カリスマ(そしてタレント、スター、作家、コメンテーター、評論家・・ 要するに 「人気者」と呼ばれる存在)の行いに 多かれ少なかれ・良くも悪くも当てはまるのではないか と思わされます。
そして 皆んながその事に自覚的になれれば 情報を受け取る側も 発する側も 今よりもバージョンアップし もうすこしマシな社会を構築できるのではないんかなぁー・・
そんなことを夢想させてくれます。

さて 「錯覚の科学 2020年度版」内容ちょっと紹介

第9回では 認知的不協和 というものがとりあげられます。
わたしはこの単語を「サブリミナルマインド」(*1) という新書ではじめて知りましたが 最近出た新刊の「認知バイアス」(*1) でも少し解説されています。
「錯覚の科学」の講座では とても分かりやすく 1講座かけてじっくり説明されました。
こんな感じです。
「人は ストレスになる作業、嫌な仕事を どうしてもやらなければならない羽目に落ちいった時に ”なんで自分はそんな事をしてしまったのか?” という心理的な不協和に対し 自分で自分を納得させるために 屁理屈を捻り出すようにできている」です(雑過ぎて怒られそうな説明ですが)。
美味しそうなブドウが高いところにある。 食べたいけど取れない。 どうせあんなもん酸っぱくてまずいに決まってる! : この流れです。
これと同じ原理が嵩じると 例えば きついのにギャラが安い仕事に対し 逆にやりがいや意味を幻想してしまう(ブラック?) という心理が誘発されます。
我慢してまで続けている低賃金労働には とても素晴らしい意義があるに違いない という自己説得。(なにも 全てのボランティア活動がそうだと言っているわけではなく あくまで心理学的な分析としてですね・・)
・・ならまだしも 新興宗教などが 信徒を心理的に拘束する手段として 厳しい修行や財産の放棄を要求しがちなこと といった戦略もこれにピタリと当てはまります。
入会儀礼・通過儀礼なども上に同じ。
終末論系の信仰団体なんかは 毎回毎回予言が外れているわけですが 彼等はその度に さらに団結を強め 行動が過激化することがあるそうで それも不協和:「ハズレたんだけど・・」 をどう自分らの中で解消・正当化するのか という心理。
トランプの落選を不協和と感じる人々の中で 特に過激な人らやQアノンの連中など 今後どんな様子になっていくのか・・

他に
第6回は 作られた記憶:フォールスメモリー の植え付け:インプランテーション について。
5歳の子供に 「ショッピングモールで迷子になったことがある」 という偽りの記憶を信じ込ませる という実験が紹介されます。
冤罪のメカニズムも説明されます。
「ブレードランナー2049」 は こいういった認知科学の話を勉強しまくった脚本なのだとわかります。
偽りの記憶が心に住み着き さらにディティールがどんどん付け加わっていく という心理。
卵サンドに対する食中毒への恐怖を植え付ける実験などという けしからん例も紹介されます。 けしからん。  No卵サンドNoライフ!

最近よく聞く 確証バイアス:確証ばかりを追い求めて知らず知らず反証を省みなくなっていく心理 は第7回です。
人間はそもそも否定から入る思考が苦手である という原理。
(数学では 背理法 という物がものすごく重宝するんですがなぁ・・)
これが 錯誤相関:なぜ雨乞いが当たってるように見えるのか と悪魔合体して いよいよ思い込みの無限ループが作動します。
陰謀論へ 一直線です。
また マイノリティー集団の行いが大集団の行いよりも目立つ という錯誤相関は あらゆる場所で見られる 少数者に対する差別や偏見の仕組み を説明します。
一方で SNSなどで一部の低俗な者達が騒ぎ立てている様子が 実際のスケールよりも大きな集団として誤認識されがち というのもこの原理かもしれません。

第8回では 誤診断の錯誤:発症が非常に珍しい病気の診断に関しては 誤診断(偽陽性)される率が イメージ以上にすごく高く出る という問題がうまく解説されていたりします。
誤診断の錯誤に関しては ベイズ統計という算数を用いた正確な説明を それこそあちこちで見かけるのですが
この講座では 今まで聞いた説明の中で最もシンプルかつ完璧な図解で 一発で説明します。

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(*1)
さて 何ともタイムリーなことに 最近書店に 「認知バイアス」鈴木宏昭著(BLUE BACKS) という新書が並んでます。


「認知バイアス 心に潜む不思議な働き」鈴木宏昭

大変読みやすく 内容も面白くておすすめであります。
認知心理学といわれるもののガイド本としては 下條信輔先生の「サブリミナルマインド」が一世を風靡しまして わたしも当時 非常〜〜〜に衝撃を受けた一人です。
が 下條先生の本は情報量がぎゅうぎゅうに詰め込まれたタイプで 文脈の前後関係や用語の把握などにかなり四苦八苦して 何度も読み返した記憶があります。
(理工系脳・プログラマー脳にとって 心理学ワールドはかなり難渋する雰囲気でして つまり 用語づかいや本としてのストーリー運びが異文化で。。)
ご安心ください。 鈴木宏昭先生の「認知バイアス」は 超読みやすいです。
あっちゃこっちゃしない感じで スイスイです。


下條信輔
「サブリミナル・マインド」
「サブリミナル・インパクト」
「<意識>とはなんだろうか」
「視覚の冒険」

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認知心理学というのは 脳の入出力応答という限られた手がかりだけで この巨大ブラックボックスの中身・動作をなんとか探ってやろうとする なかなか険しい道をいく研究なわけなんですね。
電極による入出力や fMRIや脳波図の解像度くらいまでは なんとか内部分析もできてますが。

電子回路の世界では インパルス応答という理屈があり パルス一発の入出力だけから さまざまな回路(ある種の回路)の固有性を分別できる と証明されております。
一方 統合情報理論という仮説では TMSという装置によるパルスを脳にかまして 人間の意識の謎に迫ろうとしています。
IC界隈では 逆アッセンブリとかリバースエンジニアリングというもので 標的を分析したりしますね。
一方 解剖学的な方法で脳に迫るのは難しいそう・・ なのですが、 コネクトーム計画:脳丸ごと地図化 という野望も進められています。

認知心理学というのは 勇敢な果敢な奮闘なのだなあと思いました。
あるいは MRIを超えるすごいモニター装置なんかが発明されれば 一気に研究が躍進するにちがいない ということでもあります。

2020.12.4

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